『たゆたえども沈まず』原田マハ(幻冬舎文庫)

本作タイトルは”Fluctuat nec mergitur”(揺れはするが、沈没はしない)という16世紀から使われているパリ市の紋章にある標語に由来する。この標語は2015年11月13日のパリ同時多発テロ事件後、市内にも多く掲げられていたという。


星月夜(The Starry Night)

1889年、仏サン=レミのサン=ポール・ド・モゾル療養院に フィンセント・ファン・ゴッホが入院しているときに描かれた油彩画。米ニューヨークMoMA所蔵


小説内では、前景左手にキャンパスの下端から上端まで孤立する糸杉を孤高の画家フィンセント・ファン・ゴッホ、明るい夜空をセーヌ川と捉えており、新鮮な見かただと感じた。フィンセント・ファン・ゴッホがパリ在住時にセーヌ川を描こうとしても警官に阻止されて描けなかったという布石もこの見かたで回収しており、ずっと描きたかったものを遂に星月夜で描き切ったと解釈している。


実際には存在しない加納重吉を通じて林忠正とファン・ゴッホ兄弟を繋いだフィクションではあるが、19世紀末のパリの様子や印象派が世に受け入れられていく過程を感じることができ、ワクワクする作品。


作者による芸術家やその作品を描いた小説は『楽園のカンヴァス』(新潮文庫)、『暗幕のゲルニカ』(新潮文庫)等もあり、原田マハはまさにアート小説の名手と言えよう。

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